女子高生コンビニ店員あすか(8):怪電話
プルルルル、プルルルル、プルルルル・・・
東大の授業を終えた帰り道。時間は17時頃だったと思う。
駅から家までの帰り道、僕は意を決してあすかさんに電話を掛けた。
知らない番号からの突然の着信だ。あすかさんが出てくれない可能性もある。
むしろ5コール目あたりからは、「このまま出ない方が良いかも。」なんて弱気な考えも浮かんで来た。
だが、あすかさんは電話に出てくれたのである。
・・・もしもし?
も、もしもし。コンビニのバイトのひろしですけど。
(戸惑いながら。)あ、はい・・・。どうしましたか。
じ、実は〇月〇日〇時からのシフトに入れなくなって、あ、あすかさんが空いてれば代わってもらいたいんだけど。
あ、はい。大丈夫ですよ。
風邪をひいたんですか?すごい声ですよ。
このとき、あすかさんに指摘されるまで全く気付かなかった。
緊張のため、ただでさえ低い僕の声が、さらに低くて恐ろしい声になっていたようだ。
この指摘を受け、なぜか僕はひどく動揺した。
(ヤバい、緊張しているのがバレたか。僕があすかさんのことを好きなこともバレたかもしれない。どうしよう。)
完全にパニック状態である。
普通の人にはわからないかもしれないが、恋愛経験が極端に少ない人は、「自分がその人のことを好きだということが相手にバレること」を極端に怖がる。
「この人、私に気があるな。」→「でも私はこの人のこと好きじゃないな。」とフラれるのが怖いのだ。それが例え、彼女の心の中だけに留まっている思いだとしても。
(普通に考えれば、デートに誘うためにはむしろ好意を見せる必要があるのだが。)
当然、当時の僕の、小鹿のように繊細な心は耐えられなかった。
ここで、何かがプツンと切れてしまった。
(もう、あすかさんは無理だ・・・。)
僕はシフトを代わってもらったお礼を言い、あすかさんとの電話を切り上げた。
もちろん、「お礼にご飯おごるよ!」なんて気の利いたセリフが言えるはずもなかった。
僕はこうして、自分勝手にあすかさんを諦めた。
以降、バイトの交代の際に顔を合わせることがあっても、何も行動を起こさなかった。
大学のキャンパスが変わるタイミングで、僕はコンビニバイトを辞めた。
そうして、永久にあすかさんと会う事はなくなったのである。
嘘のような本当の話。
自分で書いていても、自分の考えや行動が信じられない。
なぜ、「すごい声ですよ。」と言われたことで女性を諦める必要があるのだろうか・・・。
どうして、「すごい声=私のことが好きで緊張している」と考えると思ったのか。
でも、恋愛経験のない豆腐メンタルのネガティブ大学生は、本当にこんな行動を取ったのである。
僕の恋愛初トライは、こうしてあっけなく幕を閉じた。
チャラ男よ、申し訳ない・・・。
いくら東大生でも、僕がここまで恋愛劣等生だとは見抜けなかったんだね・・・。
(完)
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