女子大生マネージャーさくら(16):あけおめザオラル

僕は実家で悩んでいた。

さくらさんにどんな内容のLINEを送るべきか。

この日は1月1日、めでたい元日だ。

美登里寿司での大失態から、3週間が経過していた。

あの日、さくらさんと別れて以降、やり取りは途絶えていた。


正確には、「お疲れ様LINE」は送った。

さくらさんからは、形式ばかりの「ありがとうございましたLINE」は返って来た。

でも、それだけ。

あそこまで完膚なきまでに心を折られたら、いくらフラれ慣れている(といっても、大抵明確な告白は避けている)僕でも、次のデートに誘う勇気は出なかった。

だからこそ、年に1回のこの日にかけていたのだ。

1月1日、この日だけは、どんな相手に対してでも連絡を送って良い日。

さくらさんは、「僕が通常あめおめLINEを送らないタイプの人間であること」を知らない。

僕からLINEが届いても何の疑問も抱かないことだろう。

連絡が取れなくなった異性に対して、やりとりの復活を期して送るメッセージを、「ザオラルメール」「ザオラルLINE(ライン)」と呼ぶ。

説明するまでもなく、超人気RPG「ドラゴンクエスト」の蘇生呪文(50%の確率で仲間を生き返らせることが出来る)から来ている名前だ。

中でも、この呪文を最も唱えやすい日が、1月1日(お正月)だと、僕は思う。

悩みに悩んだ末、最終的にはシンプルな文面に落ち着いた。

「あけましておめでとう!今年もよろしく。またご飯行こう。」

誘っているとも社交辞令とも取れる微妙なニュアンス・・・。

これが、今の僕の限界。

これ以上強く誘うことは出来ない。

もし、さくらさんがメールを返してくれて、さらに「ご飯行こう」に対する食いつきが良かった場合だけ、次のステップに進めるという他力本願で逃げ腰の内容。

(ええーい、いったれー!)

意を決して送信ボタンを押した。

時間は午前9時過ぎ。(日付が変わった瞬間に送るのは、いかにもな感じがして、個人的には好きじゃない。)

果たして、さくらさんの反応やいかに・・・。


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